―暑い中でこそ涼しさを味わう “涼味”とは、実は単に感性の問題ではなく長い間の蒸し暑い夏に培われた科学なのです。―
それは極めて突き詰められた物理学的で生理学的で幾何学的な手法に基づいているのです。が、それこそが「夏を旨とすべし・・・」のわが国の文化となるのです。
○今回のポイント 1 田舎の屋敷を狭い都市に押し込んだ日本の家は住み難さを感じる
○今回のポイント 2 都市に必要なのは、欧州にも通じる密集する街並みにつくる「京都の町家」
日本の暑さは地形が原因。その地形を活かして大都市が生まれた
ではなぜ暑いのかを気象学的に見てみますと・・・その暑さには日照りの灼熱の暑さと、日本特有のモンスーンの蒸し暑さがあります。よく目にされるあの気象図、すなわち天気図ですが、高気圧に囲まれて比較的カラッとした暑さと、梅雨時期のような前線による蒸し暑さがあるのです。
いわゆる気圧のはざまに湿った空気と乾いた空気、さらに温度差によるせめぎ合いと、海上で熱せられて蒸発した湿った空気が流れ込んで気象が変わるのです。そこにわが国特有の地形が加わります。あの日本列島を縦走する山脈です。
こうした地形に太平洋側では南の海を迎え見るような都市ができます。これが大阪をはじめ名古屋、東京などの大都市なのです。そこに産業が生まれ、文化が育ち政治の中枢が生まれたのです。これが京都のように四方を山に囲われた平穏な盆地ではまた特殊な気象となるのです。
必要なのは地域に適した家づくり。現実は地域など関係ない「田舎の屋敷」づくり
ちょっと理屈っぽい話になりましたが・・・、実はこの簡単とも言える理屈が現代の家づくり、現代の都市づくりにかなっていないのが大問題です。そこに今のこの夏の住み難さ、さらには災害の発生の危険をもはらむのです。
この夏に起こったあの九州北部の線状豪雨やゲリラ豪雨などはまさしく温暖化の現象で地球規模での人類の大問題ですが、毎年夏の都市に起こる集中豪雨などはまさしく建築的、都市計画的な原因と言えるのです。このあたりは耐震や防火と共に行政が取り組まなければならない大問題なのですが、今となってはそこまで法制化は期待できないかも知れません。
つまり、住まいや街は農村や地方都市にあった、民家をそのまま都市に押し込め密集したことに起因するのです。まさしく利便性のある都市に“田園都市”の発想でつくってしまったのです。家の形はいまだに“田舎の家”なのです。
<イラスト:一般的な町家のプラン(画:天野彰)>
そこで狭いと土地に三階建てや、さらに高層住宅を密集してますます都市はスラム化するのです。さらにそれを防ごうと建築規制を掛けるのですが、人々の欲望は留まるところを知らず、ついには今まで住んだこともない“超高層民家”となるのです。
が、その家の本質はいまだに持ち家志向の田舎の屋敷の発想なのです。
ここは欧州のプラッツァや市場を囲んで出来た集合住宅とは本質的に異なります。まさに大陸の狭間にいて城壁の中につくられた城塞都市の集合住宅でそこにコミュニティが生まれたのです。
ここで改めて京都も見てみるのです。
その街並みの法や合理的なプラン展開から、まさに都市型住宅のあの町家の発想となるのです。そして駆使された“住まい科学”です。そこに木造ながら密集するための防火対策や通気や採光のための植栽や通り庭さらには切通しなどの工夫がなされ、それが今の京都の風情ともなっているのです。
<京都の町家:住まいの八方から植栽が見えいかにも涼しげ・玄関から裏の台所まで続く通り庭(天野彰)>
次回は「夏を涼しく」町家は平面と立体の妙をお話します。
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