悠々自適、いや灯りの演出で「“遊々”自適」でよい歳を
2016年も住まいの原点、とりわけわが国の住まいのDNAについて“しつこい”ほど、繰り返しお伝えしてきましたが、住む人も若い建築家や大工などもそのことに気づき、その本質を探るような兆しが見えて来たのだと思えるのです。伝統の継承も大切ですが、これからの日本の住まいを、独自の住まい方を創ることに専念するようになって来た・・・、のだと私は内心悦にいっているのです。
― 住まいをもっと味わい愉しもう!住まいは夜の装いこそ?味わい深い? ―
○今回のポイント 1 照明の明暗で生活にメリハリを加える
○今回のポイント 2 調光器で光を絞って落ち着いた “暗さ”の演出も粋な楽しみ方
○今回のポイント 3 “あかり”は家族団らんのシンボル
忘れもしません、1973年の秋、第四次中東戦争のさ中、今から43年前の確か10月16日、アラブ諸国の原油高騰から政府発布の原油価格の引き上げ宣言で、なぜか突如トイレットペーパーがスーパーから消え、物がなくなり銀座の灯が消えたのです。今までの高度成長の好景気からなぜかガクガクと音を立てて景気が傾き始めたのです。第一次オイルショックでした。
私たち建築に関わる者たちにとって材料は一気に高騰し、現場は動かず。設計中や建築中の現場まで見積り調整を強いられ、人々は建築計画を断念し、見送られ、仕事がまったく無くなり、その後の78年イラン政変による第二次オイルショックの後々まで苦渋の生活を強いられたのです。
最近の長引くIS、シリア問題やハリケーン被害、さらには災害や原発などにさらなる石油の高騰に、40年前の、またもあの寒い冬を過ごした恐怖のオイルショックか?とやきもきしているのです。
改めて考えてみればまさしく油断の「油断」で一躍作家として名をはせた元通産官僚池口小太郎氏こと堺屋太一氏の説く、資源を持たないわが国の経済や生活はすべて「油」すべて資源輸入によって生かされていることを快適な生活を送っていた私たちはまざまざと思い知らされたものです。
その私たちの快適な生活こそあの発明王のトーマス・アルバ・エジソンの電信・電話・電池そして蓄音機・映写機へと現代のこのITの時代となり、その中でもたいまつ、ろうそく、カンテラさらにガス灯と火を焚いて夜の闇を照らしていた生活から一気に人類の生活は変わったのです。

イラスト:LEDと白熱灯の明りで演出をする(画:天野彰)
今こうして私たちの生活は近代化され、“コンビニ”のとおり便利になりになりました。夜は明るく24時間活動でき。LEDにイルミネーションされた町も明るく女性も子どもたちも夜中遊べ、それにともない危険や犯罪のリスクも増え、さらにあの地震などの災害のように、ひとたび電気、さらには水などの供給が止まると人々はあまりにも脆弱となっていることに気が付くのです。
人類は今さら古代の生活には逆戻りはできませんが、電気を煌々と着け夜が明る過ぎるのも問題です。時にはテレビを消し、電灯も消してろうそくの明かりや月夜の明かりを楽しむなど、もっと豊かな生活体験も必要ではないでしょうか。
そうです、せっかくの電気の恩恵にもっと住まいを愉しみ、「あかり」を、いや暗さを愉しむのです。
新築やリフォームの際、あえて、蛍光灯やLEDと白熱灯を設置し、それに調光器を付けると、掃除や物を探すときは全開で最大に明るく、白熱灯で暖かい雰囲気としたり、さらに調光で光を絞って落ち着いた “暗さ”を演出するのです。

写真:暗い中で楽しめる木の温かい灯りとデッキから見た室内(箱根A様邸)

写真:リビングのボタン一つで暗くなりシャッターとスクリーンが下りて来てシアターに早変わり(I邸)
こうして生活に合わせて照明の明暗を行うだけで生活にメリハリができ、家族の表情も豊かになり奥さまも優しく綺麗になるのです。
今までの室内がドラマチックになり、不思議なことに夫婦や家族のまとまりも良くなるのです。
まさに“あかり”は団らんのシンボルで、“遊々自適”の生活となるのです。
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★天野彰先生の著書「建築家が考える【良い家相】の住まい」 講談社発行

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