○今回のポイント 1 日本の家の原点は、茶室の時代より続く「自由」「多面性」「多様性」
○今回のポイント 2 日本の家は、広さではなく、内面の充実感が重要
○今回のポイント 3 狭い家も知恵1つで広い空間を作り出すことができる
ゆく河のながれはたえずして、しかももとの水にあらず・・・
で始まる「方丈記」は800年以上も前に生まれるのですが・・・、今 家を考えるとき、 住まいの原点を見るとき、私たちにどれほど多くのものを教えてくれたことでしょう。
一丈四方、そうあの四畳半ほどの小さな庵で四季折々や世相、さらに世界いやもっと大宇宙へと誘ってくれるようなのです。
実際にその数百年のちに開花する茶の湯で茶室の小宇宙思想は、すでにこの鎌倉の時代に培われていたと言っても過言ではないのです。それにしても鴨長明の生活思想や世界観にあらためて驚かされ、現代の都市の生活に余りにも通じるところが多いことです。
私が住まいの設計やリフォームに使う、「マルチフレックス」と「マルチパーパス」の手法はその自由・多面性・多様性の日本の家の姿で原点なのです。それを長明は見事に観察しているのです。
まさしく人間・時間・空間だったのです。

写真・イラスト:購入した狭い中古2LDKをL+DKにリフォーム|A様邸。広がりを感じる空間へ(撮影・画:天野彰)
リフォームの現場で、一戸建てもマンションも、もちろん新築もあらゆる建物も、いったんその要素を丸裸の“スケルトン”にしてワンルームから改めて生活スペースを考え構築する手法なのです。その中で空間は広さではなく、その内容であり、時間と人間の動きを考える。大きな家はその移動と人間関係、さらに経済が大変となる。

写真:スケルトンリフォームで耐震強化と断熱をやり直し、落ち着いた木目調へ|M様邸(撮影:天野彰)
では、と長明のしたように郊外のはるかかなたに引っ越せば家は広くなるものの世間が狭くなる。まさしく“狭さの三すくみ”なのですが・・・、結局都市で職を求め、楽しく住みたい現実の生身の家族には、その「狭苦しさ」から「苦」を取り去り「楽」にし、さらに「楽しく」すればいい。私の“狭楽しく住む”の発想となるのです!
これこそが建築の「マルチフレックス」(多重性)と「マルチパーパス」(多目的)の手法で、実際にわがアパートやマンションで試したことですが、これこそ方丈記から私が学んだ感性だったのです。なんと鴨長明は現代の都市での複雑かつ狭い家の生活術、いや哲学を暗示していたと改めて思うのです。
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★天野彰先生の著書「狭楽しく住む法」 1983年2月発行

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