―800年も前に方丈記は今の日本の生活文化を描いていた?―
○今回のポイント 1 自然を尊重する和のブームから、住まいなどの"原点"が見直されている
○今回のポイント 2 日本人の「住の本質」は四季の文化からなっている
○今回のポイント 3 現代の都市での住まいにも、昔からの知恵や考え方を生かすことができる
長く暑い夏が終わり急激に冷えてきました。わが家も秋の装いから一気に冬支度となります。
そこに「木の家」に代表される本来の日本の家、さらには木舞壁(こまいかべ)や漆喰(しっくい)の暖かく優しい組成や素材感が懐かしく思えるのです。このことは近代的建築に住む多くの現代人にとっても求められる感性のようで海外でも空間も食も自然を尊重する和のブームとなっているのです。
そして今、改めて住まいの原点、そしてそこに住む家族の原点、もっと言えば男と女、一人ひとりの原点が見直されてもいるのです。
コンクリートの箱の中に木造の家を造れば、強靭で割安な家ができる
耐震や免振、さらには大火災などのあらゆる災害を想定して家をつくることは至難の業ではありませんが、私はもっとソフトな外郭と内皮による「セルフディフェンスハウス」なる提案を長年に渡ってして来ているのです。それは、外側は厚いコンクリートの擁壁のような壁で固め、その内側に中庭式の開放的な木造の家を建てることです。ちょっと贅沢な話しのようですが、シンプルで強靭なコンクリートの箱の内側に住みやすい柱と土壁の“裸の家”をつくるのです。結果トータル費用は強靭な割に案外割安となるのです。

イラスト:四季を感じる木造自然素材の家(画:天野彰)
日本の住まいや文化を語るとき、どうしても京都を例にしてしまいがちです。地方の古来から伝わる民家などにお住まいの方にはよくお叱りを受けるのですが・・・、。
京都はその1000年の歴史があり、それも“都市の歴史”であることで、都市の生活文化の変遷を含め、今もそれらが現実に残されているからです。
。

イラスト:小さな中庭に四季を
しかもその文化は、たとえ極東の島国と言え、古く諸外国との交流があり、異文化も多く取り入れられているのです。しかも不思議なことに、それほどの長い間「衣」・「食」「住」の原点が大きく変わっていないのは独特の気候風土と縄文を引き継いだ自然文化に確たる独自性があったからだと思うのです。
特に「住」においては農家に住む人も、都市の密集地に住む人も、さらに多雪地帯に住む人も、常夏の沖縄に住む人も、皆それぞれに四季があり、季節感があるのです。遠い以前の先祖たちが築いてきた四季の文化を今も変わらずに大切に守っているのです。まさにそれは日本人のDNAとも言うべき「住の本質」でもあるのです。

イラスト:マンションにも四季を
それがある日突然!とも言えるほど、僅か4,50年の間にツーバイフォーだ、プレハブだ、外断熱だ、やれ24時間暖房だ、と工業化が進み自然素材から化学素材となり、四季の原点をひっくり返すほどの住まいの革命が起ったのです。
住まいの設計をしていますと、「このあたりは夕方の西風が気持ちがいいんじゃ!」など、古くから暮らしているお年寄りの意見が参考になることが多いのです。

「自然素材」だけのわが箱根山荘(上)と京都高山寺石水院の四季アラカルト(下):設計撮影/天野彰
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず・・・」
この絶対的真実の絶妙口調で始まる「方丈記」は現代の都市に住む私たちにいろいろと示唆を与えてくれるのです。下鴨神社の禰宜(ねぎ)の曹司として豊かな家に生まれながらも、長明の文脈は実に庶民的で現代にも通じる合理的な“生活思想”の上に成り立っていることに感動します。なんと800年以上もの時が経った今も、日野山の方丈庵での小宇宙の四季が新鮮に観え聞こえて来るようです。
果たして今のわが家に家族に、この四季、とりわけ秋の想い深い風情が感じられるでしょうか?
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